自然栽培農場 自然ファーム ハレトケ
株式会社シーピーエスの自社農場である「自然ファーム ハレトケ」についてご理解頂くために、まずは運営会社である株式会社シーピーエスの略歴からご説明させて頂きます。
- 略歴
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- 2007年4月インザループ開設
- 2009年10月株式会社シーピーエス設立
- 2011年2月ヴィヴルアンサンブル開店
- 2014年9月ヴィヴルアンサンブル旭川開店
- 2015年5月タイ屋台飯ジダパDX開店
- 2015年秋自然ファーム ハレトケ立ち上げ
インザループの開設
株式会社シーピーエスの設立に至る前に、私たちは学生コミュニティスペースであるインザループを運営していました。
インザループを開設したのは、2007年4月のことです。大学の近くに学生が集まれる場所を作り、学生と社会を繋ぐ場所をつくりたいという思いから、北海道大学付近に開設しました。
インザループに訪れる多くの学生と交流するなかで、学生と企業がお互いを知る機会がない、または知りたくても気軽にコミュニケーションをとることができない、という現状があることがわかりました。そこでインザループでは、学生と企業が交流を深めお互いを知ることができるよう、様々な施策を実施しました。企業と学生が合同で運営する交流会や講演会の開催、企業の人事担当を招いての会社説明会などのイベントの実施をはじめとして、インザループを利用する学生一人ひとりの特徴や志向をデータ化し、より良い学生と企業のマッチングを行う試みなども行いました。
企業と学生のお互いのニーズとして最も大切なものはリクルーティングですが、当時、企業が新卒採用を行う場合の主流は、札幌ドームのような大きな会場で行う合同企業説明会でした。合同企業説明会では、1つの企業が数十名の学生を同時に相手にするようなスタイルであり、企業は多くの費用を負担しているにも関わらず、学生を大勢の中の一人として扱わざるを得ない状況でした。
インザプルーブで行った施策は、企業から学生に向けて的確なアプローチを行うことのできる、新たなリクルーティングの場となりました。
しかし、2008年のリーマンショック以降、企業と学生のリクルーティングが、大きく変わることとなりました。学生が数十社にエントリーシートを送る一方で、企業は大規模な採用を控えるようになり、企業は大勢の学生から少数の優秀な学生を選抜することが出来る状況へと変っていきました。インザループもその影響を受け、企業からの学生へのアプローチは減り、次第に学生のサークル活動も消極的なものになっていきました。
ところが、そうした状況のなかでも、唯一積極的な活動が目立ったのが農業をテーマに活動する”農業系サークル”でした。
農業との出会い
インザループを利用していた北海道大学の農業系サークルは、大学で学べる「学問としての農業」だけでなく、札幌市近郊の農家さんの所へ実際に出向き、ボラバイト(ボランティアとアルバイトの間)という活動を行い、農業の現場についても学んでいました。そして私たちは、そのような活動を行っている農業系サークルとの交流を通じて、農業の現状やそれにまつわる農家さんの思い、農作物の現状などを知る機会を得ました。
農業系サークルは、年々サークルの人員が増加しました。その一方で、より多くの農業を学ぶ現場が必要になり、既存の農家さんだけでは現場が足りない状況になっていきました。
そこで私たちは、この学生サークルを応援するために、ボラバイトを受け入れてくれる農家さんの開拓を始めました。はじめは、どうしたら農家さんと話す場が持てるのか、会える機会はどこなのか、農家さんから何を聞いて来れば良いのかなど、分からないことだらけでした。結局、学生が訪問していた農家さんに話を聞き、知り合いの農家さんの紹介を受けながら少しずつ横展開していくことになりました。
ボラバイトについても「学生の受け入れ」イコール「人手が増えて助かる」という単純な事ではないことに改めて考えさせられました。学生は当然農業の現場では素人であり、はじめは無知のまま圃場(作物を栽培する田畑などの場所)に立ち入ります。踏んで良い所、踏んではいけない所、雑草なのか、作物なのかなど、農家さんは作業内容の説明だけでなく、基本的なことから一つ一つ説明しなければなりません。さらに、一通り説明を行っても、来る学生が変われば初めから説明しなければならず、農家さんの負担は決して少ないものではありません。こういったことに理解を示してくれる農家さんがいても、現実的に学生を受け入れることは難しいというのが現状でした。
そうしたなか、新鮮な地元野菜の直売会を行っている農家さんがいると聞いて直売会を訪ね、当別町の大塚農場の大塚さんにお会いすることができました。大塚さんは、素人である学生を受け入れる様々な負担も想定されるなか、”勉強中なのだから”と学生の受け入れを快諾してくれました。学生の勉学意識と農家の現状の両方を理解し、学生を受け入れてくださった初めての農家さんでした。現在もその取り組みは継続して下さっています。
株式会社シーピーエスの設立
農場を経営する大塚さんとの交流が生まれた私たちは、生産・収穫・梱包・出荷という作業の中で、「収穫」に人員が割けないことにより出荷が行えない作物がある、ということや、急激な天候変化の影響により作物が割れてしまうなど、市場に出せない作物、廃棄にせざるを得ない作物などがあり、「農家が汗を流して育てた生産物」のすべてを市場に流通出来ていないという現実を知りました。
農家さんは、このような「出荷できなかった生産物」にも出荷できたものと同じだけの時間や労力を掛けて育てています。中には味に全く影響していないが、「見た目に問題がある」、「色味が悪い」、「大きさが小さい」、「時期がずれてしまっただけ」などの作物も含まれていました。
これらは、いわゆるB品という枠に入れられてしまい、それだけで商品価値が落ちたようなイメージをもたれやすいですが、中にはスーパーや小売店に並ばないだけで実際には美味しく食べられる状態の生産物が数多くありました。
こうした生産物が、値段も付かず、自家消費や翌年の堆肥に変わっているなど、流通に乗らない事を不思議に思い、私たちはそれらを有効活用する方法が無いか、模索し始めました。「未利用資源の利活用を行う」というテーマの活動です。
その頃から、インザループの様々な活動を通じて知り合った企業との交流も増え、活動を本格的に行うにあたって安定した基盤の必要性を感じ、2009年10月、株式会社シーピーエス(以降、シーピーエスと表記)を設立しました。
これ以降、インザループの運営、学生や農家さんおよび企業との交流もシーピーエスとして行うようになりました。
その頃、後にシーピーエスの自社農場の農場長をお願いすることになる中田さんとの出会いがありました。
アクセスサッポロで催されたある商談イベントで、野菜直売会に参加した大塚さんのお手伝いに行った際、隣でブースを構えていたのが札幌市南区で自社農場を経営する中田さんでした。
中田さんはゴーヤやトマトなどを販売されており、学生の受け入れ先になって頂けないかと相談する為に話しかけたのが最初でしたが、大塚さんと年齢も近く(学生とも近い)、大いに話が盛り上がった記憶があります。慣行栽培・特別栽培・有機栽培などの生産方法や、農協の役割、市場の役割、食材卸や仲買人、食材流通のロジスティック、ハウス栽培や水耕栽培などの違いなどについて勉強させて頂きました。
ヴィヴルアンサンブル立ち上げ
大塚さん、中田さんとの出会いからはじまり、その後も様々な農家さんと交流をもつようになり、農家さんに対して私たちにできる支援は何かを議論していくなかで、未活用になっている食材を適正価格で販売出来るようにすること、というひとつの課題に向き合うことにしました。
そこで、日本最大の消費地である東京において、北海道産の未活用食材に興味があるレストランを探したところ「是非使わせて頂きたい」と名乗りをあげてくれたのが、当時世田谷でフレンチレストランを経営していた荻野シェフでした。フレンチ料理の思想には、「食材を無駄にしない」という基本コンセプトがあります。生産物はA品B品に関わらず使用してもらえるようになり、「未利用資源の利活用を行う」ということを継続できるようになりました。
また、より多くの食材を使用していく為には席数に縛られるレストランよりも、より多くのお客様に提供できる業態を、と考えた結果、荻野シェフの協力のもと惣菜店を出店することにし、2010年2月、丸井今井札幌本店に「Vivre ensemble(ヴィヴルアンサンブル)」を出店しました。
ヴィヴルアンサンブルでは、できるだけ生産者と直接連携して生産物を購入し、それがB品だったとしても生産者に損が出ない価格(適正価格)で購入することを前提に仕入れを行っています。また、道産食材にもこだわり、可能な限り使っている食材の生産者の顔が見える惣菜を作る、というコンセプトを現在も実践しています。
自然栽培
日本の消費を支えるには、安定して大量生産を行う必要がありますが、そこで重要な役割を担っているのが流通食材の「規格」です。この「規格」があることで、消費者は食材の良し悪しを悩むことなく購入ができるようになったり、購入時の値段も安定したものになったりするなど、多くのメリットがあります。
ところが、生産者サイドからすると、規格に当てはまらない生産物を作ろうとして作っている訳ではなく、生産者が手を抜いたことにより規格外になる訳でもありません。それでも、どうしても一部商品は流通には乗らなくなってしまいます。全ての作物に同様の労力と愛情を持って接したものの、現在決められている「規格」に当てはまらなかっただけです。
この規格に左右されないような生産、流通が出来ないかと考えたときに、生産物自体の商品力が高い「自然栽培」にたどり着くことになりました。
また消費者の方の一部に、アレルギーやその他の理由によって「食べたくても食べられない」という意見があったのも大きな要因の一つでした。それらの根本原因は人それぞれであり、特定できているわけではありませんが、もしこれが農薬等によって引き起こされる症状であり、農薬等を使用せずに生産された生産物なら食べられるという事であれば、これまで行ってきた未活用食材の有効活用という面でも大きな成果になると確信していました。(食物アレルギーの一部に、農薬等を使用された食物の残留農薬が原因と考えられるものがあります。食物そのものが原因のアレルギーの場合はその食物を食べることはできませんが、残留農薬が原因であれば農薬未使用の食物を食べてもアレルギー症状がでないことがあります。)
そんな時、北海道の仁木町で自然栽培学校を行っている方がいるという事を知り、そこに参加させて頂いたのが木村秋則先生との出会いでした。
全国各地で自然栽培の講義を行う木村先生は、自然栽培の技術を貯め込み特権を持たせるものではなく、広く普及していく為に指導して回られており、より多くの方に自然栽培の食材を提供出来るようにする為の活動と知り、感銘を受けました。
自社農場の開拓
レストランで料理を提供するには様々な食材が必要ですが、自然栽培食材の料理メニュー、コースなどを作る為には、野菜から肉、魚、調味料に至るまで、多岐に渡る食材が自然栽培により存在する必要があります。そこで、木村秋則先生の元で、野菜やお米の自然栽培に取り組むべく、自社農場での営農を行うことにしました。
北海道の営農にあたっては、北海道に基盤を置いた自然栽培の生産及び指導を行う為、以前より無農薬で野菜を生産していた中田さんに相談し、幾度かの木村秋則先生とのやり取りを経て、野菜と米に関して中田さんに監修および農場長をお願いし、2015年秋、自社農場である自然ファーム ハレトケの立ち上げに至りました。
自然ファーム ハレトケの一年目は札幌市内でおよそ4町歩の圃場を借り、自然栽培の野菜を作りました。秋に大根・カブ・ミニ白菜を作付し、大根およそ3万本、カブおよそ4万個の生産となりました。
2016年は、圃場を合わせて10町歩にまで拡大するとともに、レストランとの連携を密にして少量多品種での生産にチャレンジし、飲食店・レストランが欲しい野菜を生産していく出荷先確定生産を行います。
自然ファーム ハレトケの今後
<目標>
自然ファーム ハレトケの目標は、北海道で300町歩、関東50町歩、九州50町歩で自然栽培を生産流通販売し、2020年の東京オリンピックで、自然栽培の生産物で選手村の食事を担うことです。また、その後も継続して流通量を維持し、普通のスーパーに慣行野菜・有機野菜・自然栽培野菜が並び、「消費者が選べる体制」を作ります。
<新規就農者支援>
これから新規就農したいと考えている方に、自然栽培での新規就農も視野に入れて考えられるような体制を考えております。
・種、育苗土の販売体制作り
種の多くはコーティングがされており、作物から直接種取りした状態とは異なります。
自然栽培では無農薬・無肥料・無除草剤で生産を行いますが、現在はコーティングされていない種を手に入れる事は難しい状況です。そこで自然栽培の種を採取し、新しく自然栽培に取り組みたい方に向け、スタートしやすい体制を整えたいと考えています。
また、市販の苗に使用されている土には苗を成長させるための施策が行われている為、自然栽培の圃場に植えた場合に一度生育が失速する場合があります。苗を作るところから自然栽培の土を使用する事によって種と同じようにスタートしやすい体制を整えたいと考えています。
・栽培マニュアルの確立
農業には教科書というものがありません。それは地域や気候、生産者によって方針や得手不得手が千差万別であったからだと思います。
自然栽培においてもこの千差万別な状況に対応しきれるわけではありませんが、先人たちの知恵を明確な数字として残していく事で、ノウハウを蓄積していけるのではないかと考えています。
自然ファーム ハレトケでは、農業ICTを活用することで、気温や日照度といった数値を蓄積し、地域ごとの標準や平均値、目標値などを明確にした上で、数値を基にした農業を行えるような体制作りを進めています。様々な数値やノウハウをまとめ、栽培マニュアルとして確立しようという試みです。
・直接指導の体制作り
農業ICTを利用する事で、遠隔地に居てもリアルタイムで圃場の確認を行えます。これまでは指導者が圃場に常駐し、作業を共にしなければ指導を受け難い状況でしたが、これからは写真や映像だけでなく、各種センシングを活用して指導者が現場に居なくても指導が受けられる状況を確立し、指導者が全国を駆け回らなくても良い体制を作ります。
・自然栽培学校の確立
これから自然栽培に取り組もうという方に、自然栽培のノウハウを伝授していく学校の確立を行います。
農業ICTの使い方やコツを含めて営農に関するノウハウに加え、生産した野菜の購入や流通に関しても受講中のフォローはもちろんですが、卒業した後の農地取得、売り先確保、緊急サポートなどの支援体制を整えます。